この夏、熱く燃えた路上写真家たち(「日本カメラ」より)


若者が゛写真プリントとカメラを片手に、路上に繰り出している。
渋谷系のメッカ表参道と原宿から渋谷への路上、吉祥寺・井の頭公園、下北沢、そして新宿東口日曜日の歩行者天国などが主な場所である。

写真も音楽も好き

「お金がないからギャラリーを借りるのは無理。路上ならタダで、いろいろな人に見てもらえます。本当は写真より音楽が好きかな。音楽を聴いていて、湧いたイメージを写真にしています」
と今年、専門学校の写真科を卒業して、アルバイト中の川崎公子さん、通称ビッケ。写真ハガキをつくり、1枚200円で売っている。
川崎さんの写真は、赤地に割れた卵の黄身が流れ出ているものや、毛皮のコートの襟をなびかせた女性の後ろ姿など、CDジャケットに向く感じの作風。いまふう路上写真家の特徴は、彼女のように音楽も好きというタイプが多い。
新宿東口の歩行者天国で、写真を売り出して1年の久富忠彦さん。ロックバンドのメンバーでもある。日常の写真的な風景を撮影し、コンビニのカラーコピー機でA4まで引き伸ばし、プラスチックの薄手のボードに両面テープで貼り付けるというのが、久富さんのスタイル。部屋に飾るのにちょうどいいサイズで、しかも500円と安いのが受けて、1日にだいたい1万〜1万5000円売れるという。
「プロになりたいとか、テーマを決めてコンテストに出すというつもりはありません。日常のなかで、撮りたいなと思ったときにシヤッターを押しているだけ。売れなくても、見てもらえればいいんです」
使いきりカメラなどで、子どものころから写真を楽しんで育った新しい世代が、昔の文学少年ブームと同じように、日常的な感情表現にカメラを使っているのだ。

白黒オリジナルプリントを路上で販売する正統派

路上で「写真」を売る場合、カラーコピーでつくったハガキなどが多いのだが、今回見かけたなかで、唯一正統派白黒オリジナル限定プリントを1年近く路上で販売しているのが゛小宮山隆志さんだ。1枚1500円と、他の人より売値が高い。
小宮山さんは、コニカプラザの「新しい写真家登場」特別賞を受賞。作品は住まいの池袋周辺のスナップや女性ポートレート、アメリカ留学時代の作品など。1作品を限定で5枚しかプリントしない。
「動物写真はよく売れるけど、同じものは5枚以上焼きません。あくまで作家性を大事にしたいんです。日本ではまだ、オリジナルプリントを売って写真家が生活できるような体制が整っていません。路上は一つの道かも。それに1対1で話しながら売ることができるので、大規模な流通にはない手触りや自由さもあります」
小宮山さんの、路上の店は、若者を中心になかなかの人気。売り上げは1日7000円〜1万円。普段は写真ギャラリーには決して足を向けない層が、路上で本格的な白黒写真に触れているようだ。足を止める人たちは、自分も写真を普段撮っていて写真好きの人が多い。そういえば、カメラを首にかけた「カメラ小僧」を渋谷、原宿ではたくさん見かける。

写真を撮りながらの旅

この8月に、自分の写真を売りながら、福井、富山、京都、大阪、愛知、和歌山を旅したのは寺島竜太さん。寺島さんは失業中に、懐中電灯を当てた花やロウソク、自分の顔を長時間露出で撮ったり、心霊写真ふうの超現実的なイメージの写真を制作。
自宅近くの盛り場・吉祥寺で、2Lサイズのプリントを黒台紙に貼ったものを、700円〜1000円で夜に販売していた。そんな作品内容のせいか、昼はほとんど売れないという。
「自分の写真が本当に意味があるのかどうか、旅をしながら多くの人に見てもらい、確かめたかったんです。旅の間、1日約1万円の売り上げに。移動の交通費なども必要だったので、サウナに泊まったりしながら旅を続けました。値段は一応つけているんですが、自分の価値観で2000円で買ってくれる人もいました。旅で写真に自信がついて、今はプロになろうと思っています」

路上写真家の作品ウォッチングで、
斬新な完成を盗もう

断っておくが、路上でものを売るのは道路交通法違反である。しかし、いまのところ警官から注意されたら店を畳むなどすれば、ほとんど問題はないという。
ここでは一部しか採り上げられなかったが、路上写真家のほとんどは学生である。出店は2〜3回でやめてしまうが、これらを見てまわるのも楽しい。若さと斬新さを感じさせる作品もあり、ギャラリーでは見られない、生の未完成な面白さに出会える。


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