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最初においらが「かもめのジョナサン」を読んだのは高校生の頃だった。発行当初は殆ど売れなかったという同書だが、著者リチャード バックの本国の米国でじわじわと話題を集めて、一躍世界的なベストセラー本となってしまったといういわく付きの一冊である。原作本も平易な英語で書かれていて親しみやすくて手にとったりしていたが、五木寛之氏による訳書を購入していた。
主人公のかもめのジョナサンは、ただ単に餌を取って食べることのみに時間を費やす他のかもめたちから離れて、飛行することを追求する。飛ぶことはついには食べることから離れて生きることの意味を示唆し、単に飛ぶことという物理的な意味を超えて精神的な理想論や形而上学的な世界観やらを指し示すことになる。誰もが胸の奥底に持っていたであろう当時の精神世界への希求が大きなベクトルとなって、同書を稀有なるベストセラー書として押し上げていたということは想像に難くなかった。
そして今回第四章が加えられたのが「かもめのジョナサン 完成版」の発刊である。とても抽象的でありながらストレートな記述だった過去版ジョナサンとは少々趣きを異にしており、完成版の第四章はとても理屈っぽい。例えば第三章の形而上学的なメッセージにも似ていなくて、無性に理屈ぽさが目についてしょうがない。21世紀に入ってかつての20世紀的な物語が不可能になってしまった時代における、これこそは新しいポストモダンの小説の試みと云えるかもしれない。
ヒーローの物語として語られた「かもめのジョナサン」は、全世紀のごとくに語り継げられることを著者自らの手によって拒否され、ヒーローではない語り部の物語として再生されようとしている。新しい時代の理屈や世界観によってヒーローが再生される保証や根拠は何も無いはずなのに、新しい物語を綴ったリチャード バックには、個人的な関心が高まってならない。