帰省中の上州「前橋文学館」で開催されていた企画展で、萩原朔太郎さんのとてもユニークで貴重なエッセイに触れることができた。
我が国における屈指の近代詩人として名高い朔太郎さんだが、彼のエッセイや随筆の面白さ、ユニークさに関しては、あまり知られるところが無かった。朔太郎さんの詩の世界においてはとてもユニークで先鋭的な世界観が見て取れるのだが、それらのユニークな世界観を直截的に開陳したエッセイ、随筆の数々は、朔太郎ファンにとってのみならず全国文学関係者にとっての、貴重な資料では在る。本日は偶然ながら、そんな貴重な文学的資料にも接することとなったのである。
中には萩原朔太郎全集にも掲載されることのなかった随筆が、その貴重なる生原稿が、展示されており、朔太郎マニアのおいらにとっても格別な邂逅となっていたのだ。そのひとつが「贅沢・飲酒」と題されたエッセイ生原稿なのである。いわゆる一つの飲酒という贅沢、それらに拘泥した詩人、文学者たちへの共感のメッセージとともに、朔太郎さんが生きた「新しい時代」の芸術家たちへの失望とも捉え得る記述が在る。
―――(以下、引用開始)―――
今日の詩人たちは、あまり酒を飲まなくなった。志士や革命家等も、昔のように酒豪を気取らないのである。「飲酒家」といふ概念が、何となく古風になり、今では「時代遅れ」をさへ感じさせる。現代の新しき青年等は、殆ど飲酒を知らないのである。彼等の観念からは、概ね「酒飲み」という言葉が、旧時代の「オヤヂ」と聯絡するほどである。新しき時代の青年は酒を飲まない。いな飲酒の要求がないのである。
―――(引用終了)―――
新しい詩人や芸術家達が酒を飲まないということは無かったのだろうが、上記したこの朔太郎さんの一節は、苦き芸術家の挟持を表しているのに相違ない。何時の世にも呑兵衛たる詩人は迫害されるものかも知れぬということなのかもしれない。さらに述べれば、生半な市民や青年達からの迫害に対峙する気概こそは、天才詩人のアイデンティティを示しているのかも知れないのである。
■前橋文学館
正式名称:萩原朔太郎記念水と緑と詩のまち前橋文学館
郵便番号:371-0022
所 在 地:群馬県前橋市千代田町三丁目12番10号
T E L:027-235-8011
■朔太郎のおもしろエッセイガイド
期 間:2月15日(土)~3月30日(日)
会 場:1階企画展示室
時 間:午前9時30分~午後5時(金曜日は午後8時まで)
休館日:水曜日
観覧料:[ 企画展のみ]100円