第百五十回芥川賞受賞作品、小山田浩子さんの「穴」

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先日発表された第百五十回芥川賞受賞作品、小山田浩子さんの「穴」を読んだ。月刊文藝春秋誌では150回の区切りの受賞作品として大々的にピーアールしているようだが、読了してみたら、いまいちピンとこない印象に捕われてしまった。

物語の出だしは夫に転勤の辞令がくだり夫の実家の隣の借家に引っ越しをするという、若い夫婦の極めて日常的なエピソードから始まる。妻はそれまで勤めていた職場を辞めてフリーになるが、新しい土地での居場所が定まらないままに、いかにもありがちな若夫婦のエピソードを重ねていく。「転勤」「辞令」「異動」「再就職」といったテーマが並ぶのがまるで安っぽい社会派小説のような進行なのである。表題の「穴」とは、若妻が謎の小動物を追っていたら偶然に「穴」に落ちてしまったというエピソードを示している。中段に至って漸く純文学的なエピソードが現れるかの流れとなるのだが、それはまるで典型的な「非日常」「異界」「幻想」等々の修飾を可能にするかのような代物であり、余計な白々しささえ覚えざるを得なかったというべきなのである。

読書中には何度もミステリー作品に対するかのような期待感さえ惹起させたのだが、そんな大衆文学の要素さえ裏切ってしまう。こんな作品が本当に芥川賞なのかという思いさえ抱かせてしまうのである。