食器棚に眠っていた「タジン鍋」を引き出して、「牡蠣のタジン鍋」をつくったのだった。
タジン鍋というのは北アフリカのマグリブ地方から発祥され、モロッコ等において引き継がれているた土着鍋であり、とんがり帽子のような形をした鍋蓋が特徴である。細くなった蓋の上部には素材から滲み出た水分が水蒸気となって充満しやがて滴り落ちた水分が容器の隙間をふさぐので、鍋の中が密封状態となる。肉や野菜類の香り、栄養素を閉じ込めるという、とても意義深い鍋なのだ。
モロッコ国を始めとしてアフリカ各国では飲料用の水分は極めて貴重なものであり、貴重な飲料水を最大限に活かした調理法が求められていた。素材の水分だけで調理することは、理想的な解決策であったと思われるのであり、そんなニーズに応えるべき鍋として、このタジン鍋が誕生したと考えられている。
そもそもタジン鍋を牡蠣料理に用いたのは、牡蠣の蒸し料理鍋として其れ以上のものが無かったからである。最小限の水分と胡麻調味料とを下に敷き、白菜、ネギ、シメジ茸、等々の野菜を並べて、其の上に生牡蠣を置いていく。そしてとんがり帽子のタジン鍋蓋を置いて、弱火の火にかけて十数分。香り高き牡蠣の蒸し焼き料理が完成したのである。
牡蠣等の旬の海鮮や新鮮野菜を味わうには煮る、炒める、よりも蒸すのが一番であり、その点でタジン鍋は少量の水分と調味料とで蒸し調理が手軽にできる、最適調理法と云えるだろう。タジン鍋の下の素材は厚い鉄板であり、直にガス火をつけて大丈夫なので、蒸し料理も比較的簡単に出来上がると云う特徴がある。大雑把な家庭料理づくりにおいてはとても重宝する調理素材であることを、改めて認識したのだ。