今時の珍しい秋魚「カマス焼き」を食する

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カマスとは秋の魚の一種である。秋刀魚には知名度では及ばないが、先鋭なるキック力、脚力を活かして泳ぎは時速150km程にも達するという。この点においてはカツオやトビウオにも適わないという瞠目すべき能力である。俊敏な泳ぎや秀逸なルックスでは、けだし「秋一番魚」の称号も相応しいくらいだ。海中を生育の縄張りとする生き物の中では特筆した能力を示している。他に無い特殊な能力を有する生き物ではあるが、良いことばかりとは限らずに却って世の不条理に直面するものである。例えば人間社会の中では「カマス」的なタイプは、おそらく浮いた存在として生きていくことになるのであろう。そんなカマス的存在を連想するに、カマスでなくて良かったなどという勝手な思いに囚われてしまうのである。

ところで塩焼きにして出された「カマス焼き」に箸をつけて口にしてみると、これまた珍しい味わいなり。細身の身体は骨も太くて食べづらいが、骨の間に箸を入れて身をすくえば、ひとつひとつが味わい深いものだ。魚類の脂が乗っていることはもとより、繊細な白身の旨ささえ感じ取れる。干したカマスが人気だというが、生カマスを塩焼きにしたものの方がカマス本来の味に近づくことができる。カマスは薄塩の塩焼きが一番である。