藤野可織さんの芥川賞受賞作「爪と目」を読んだ

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遅ればせながら、今年の第149回芥川賞受賞作品である「爪と目」を読んだ。作家の藤野可織さんは、京都出身で同志社大学で美学芸術学を専攻したといい、これまで幾つもの文学賞を受賞したという注目の作家である。彼女の可憐な風貌とあわせて興味をそそられていた。

冒頭の数行を読むだけで、同作品にはユニークな文学的企みが込められていることに気付かされる。「わたし」が「あなた」に対して二人称で語りかけるのだが、その「わたし」とは生まれて間もない幼少の私であり、「あなた」とは父親の愛人から同居することになる義理の母親である。あやゆい関係性のなかでの二人称というスタイルを採用したことが、この小説を際立たせて個性的なものに仕立てている。

一方で、最初の導入からミステリー仕立てで推移する物語が、最終的にはミステリーを捨て去ってしまったかの結末として収束されていくのだ。ミステリーとしての展開を期待して読み進めていた読者を軽く裏切る結末ではある。ミステリーマニアでは無いおいらにとっても些か拍子抜けする結末ではあった。特別な深読みをするのでなければ、この物語のストーリーを評価すべきポイントは見つけることはできない。それでも芥川賞を受賞した作品なのだから、選考委員の面々もいろいろと評価してのことであろうと推察する。