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映画「渋谷」つながりで読みかけていた「腑抜けども、悲しみの愛を見せろ」を途中で放り出した。ストーリーが判っている本に向かって熱中することができなかったのである。だがその代わりに読み始めていた「生きてるだけで、愛。」にはまったのでした。
いやいや作品としてはこちらの方が断然上である。奇書的傑作とでも呼んだら良いのだろうか? 鬱病持ちで奇行の目立つ女主人公寧子と零細出版社の編集長男性とのドロドロの恋愛絵巻なのだが、ストーリーのはちゃ滅茶ぶりとは裏腹に、妙に訴えてくるリアルが確かに存在する。
例えば太宰治の「ヴィヨンの妻」はといえば、破天荒な夫に振り廻され翻弄される妻の姿を描いた傑作であるが、この男女の関係性を反転してみたらこうなるであろう、不思議に生々しいリアリティがそこにはあるのだ。本谷有希子さんには「女太宰治」の称号を差し上げたいくらいである。
女の身勝手な衝動に振り廻される男の姿は、一面で滑稽であり痛々しい。だが男の何処かには、特別な女に振り廻されたい的願望が巣喰っていることも見逃すことはできない。いつかは壊れてしまうかもしれない、否きっとそのうち、崩壊するであろう、決して甘くはない肥大した、恋愛という対幻想の姿かたちを、この奇書的傑作は写し示してくれるのである。