総武線の千葉駅から乗り継いでJR佐倉駅を降りて送迎バスで20分。そうとう郊外のところにその美術館は在る。バスに揺られて美術館へと向かう途中の光景は、田植えを終えて水をたたえたばかりの田園風景なのであって、予想以上に会場への期待が高まっていた。
この「DIC川村記念美術館」は、大日本インキ化学工業のDICがその関連グループ会社とともに収集した美術品を公開するために設立された。二代目社長の川村勝巳による近代西洋絵画に加えて、三代目社長こと川村茂邦によるマーク・ロスコの壁画、フランク・ステラの諸作品を始めとするアメリカ現代絵画が常設展示の中心となっている。
特にマーク・ロスコについては、「ロスコ・ルーム」と称される特別な一部屋が設けられている。天地2メートルをゆうに超える巨大な壁画の作品群が部屋中を覆っている。過去には何度も画集、画録等にてマーク・ロスコ作品には接していたが、これほどに巨大なる「壁画」に触れて、初めてロスコのオリジナルを体験した思いがした。ただすこぶる残念なことに、この特設のルームの照明はと云えば、近代絵画の展示室の如くに薄暗い照明によっているのであった。アクリル絵の具の長所を駆使して描いたロスコの作品を纏う照明としては、甚だしくミスマッチであった。
マーク・ロスコを凌いで個人的に最も印象に深く刻まれた作品は、モーリス・ルイスの数点である。村上春樹さんの新著「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」の装丁画として用いられているのがマーク・ロスコの作品である。
幾層にも流し重ねられた絵具の層が画面全体を覆い透明感のある画面が特徴の〈ヴェール〉、カンヴァスの両端から中央にむけて、鮮やかな色彩の絵具が流れ、中央に白い余白を残した〈アンファールド〉、細長いカンヴァスに、いくつもの鮮やかな色の帯を束状に垂直方向に流して描いた〈ストライプ〉といったコンセプトの代表的作品を目の前にして、やはりこの美術館に足を運んで正解だったという思いを強くしていた。
■DIC川村記念美術館
千葉県佐倉市坂戸631番地
代表電話:0120-498-130
http://kawamura-museum.dic.co.jp/