我国の酒場におけるノンアルコール族の生態

先日、上野界隈の居酒屋にて一献やっているところへ、奇妙な客が訪れた。店員の「お飲み物は?」との問いかけに、「ノンアルコールで」と返していた言葉が、その場においては奇妙珍妙の類に感じさせていたのである。

「ノンアルコールビールは無いんですか?」

とそう穏やかに聞く客に対して、若き女性店員の対応は極めてぞんざいであった。酒を飲まない客など客の資格に値しないと、多分そのくらいの目線で客を見下している光景であった。その店員が何と答えたのかは残念ながら把握できなかったのだが、その後のやり取りで、客が出した注文の豊富さに、つまりは呑兵衛を超えるくらいの通的のオーダーを受けて、店員はそそくさと後ずさりをするしかなかったようである。

おいらの知人でも「酒は飲めないが、酒場の雰囲気が好きなので、一杯付き合う」とのたまわれて酒を酌み交わした人たちは少なくは無いのであり、ノンアルコール族の人権と云うべき問題がそこに横たわっているとも云えるのかもしれない。

ともあれおいらはそんな光景を目にしつつ、やはりそのおやじに言葉を掛ける気にはならなかった。素面の人間と酒場で一緒にした時のこと、つまりはノンアルコール人間と一献やっていたときの、その気まずさが、改めて記憶に浮かんできていたのであり、そんな異質の人間に対する、ある種一定の防御本能が働いたのかもしれないのであった。