戦時中および戦後の一時期に「すいとん」とは、質素なと云うよりお粗末至極な食べ物の代表的存在であったが、今時の居酒屋にて提供される「すいとん」はと云えば、とても具沢山であり、お粗末、質素どころか、味わい深き逸品のメニューとなっていたのだった。
かつてのメリケン粉こと小麦粉を練って団子状にして、熱々の鍋に仕入れて行くという基本は一緒なれども、添えられる具材が、鶏肉、蒲鉾、ほうれん草、蒟蒻、葱、等々と具沢山であり、まるで長崎チャンポンか中華の広東麺か五目ラーメンくらいに豊富なのであって、一目見てこれは戦時中、戦後の「すいとん」ではないなという印象に苛まれてしまっていた。おいらがたまに家でつくるすいとん以上に具沢山であり、そのギャップはと云えば、ある種のカルチャーショック的なものであった。
現代日本の郷土料理の中で、岩手の「ひっつみ」というメニューが、すいとんの発展系とも云えようが、それ以外にも、埼玉本庄界隈の「つみっこ」等々、すいとんをベースにしたメニューは全国に拡がって定着している。
ちなみに今回食した具沢山の「すいとん」は、東京の郷土食がベースとなっているそうだ。地元東京都内の居酒屋店主の試行錯誤の表れとも云うべき、ホットで満足至極のメニューではあった。