昨年の芥川賞作「乙女の密告」(赤染晶子著)を読んだ

遅ればせながらであるが、昨年上年度の芥川賞受賞作である赤染晶子さんの「乙女の密告」を読了した。
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主な舞台は、京都の某外国語大学のドイツ語学科。バッハマン教授と大学で学ぶ「乙女達」とのやり取りをめぐって物語が進行していく。進行しつつある物語は「信仰」がテーマでも有る。ドイツ人教授のバッハマンは「ヘト・アハテルハイス(邦題名「アンネの日記」)」をテキストにしている。

其処で繰り広げられるテーマが、アンネを密告したものは誰か? そして何故か? と云ったものとなっている。戦後ドイツ社会における最大のテーマなのかも知れないものを、我国に持ち込んで、ドラマは所謂一つの「予定調和」的ビジョンへと進んでいく。戦後民主主義の底本をなぞって仕上げた、まるでレプリカのような読後感を抱かさせる。この読後感といったらまさに、欧米社会へのコンプレックスの裏返し的世界観に他ならない。

ドラマの展開はまるで少女漫画かライトノベルのように、テンポ好く、しかも軽く、進んでいく。テーマがどうであれこうしたテンポの好さはこの作者の持ち味なのだろう。ライトノベルは我国の純文学界を席巻しつつあることの、一つの証左であるとも云えよう。

純文学賞の「芥川賞」受賞作でありながら、軽い推理小説的要素を多大に含ませた作品でもある。だが最後の落ちは味気ない。とても味気なく、妙に失望させられた。ガッカリ千万であったことをここに記しておこう。