美味い茄子料理は「焼き茄子」にかぎるのだ

秋茄子が断然に美味い季節である。この時期になると、秋刀魚、茸、等々をおいても何よりも茄子が食べたくなる。夏の茄子よりも秋の茄子が美味いということをいつしか知ってしまった時からの習わしと云っても良い。

 美味い茄子には余計な調理は必要ない。とはいっても簡単な調理で済ませれば良いという訳ではなく、おいらのおすすめは「焼き茄子」、特に炭火で丁寧に焼いて仕上げたものは格別の味わいなのである。

 おいらはこの焼き茄子が食べたくなると訪れる店が在る。ここでは名を伏せるが、そこの焼き茄子の調理法は極めてシンプルかつ大胆だ。

 まずは大降りの茄子を炭火の上にのせる。この炭とは焼き鳥やその他数々の焼き物を調理する、調理場における大変な場所となっているのだが、兎に角もそこにのせていく、皮もへたもそのままに炭の上にのせるのだ。

 そして焼け焦げないように丁寧にひっくり返しながら、実がじゅーじゅーと体液を滲み出していくのを待つのだ。その時間は3〜4分といったところか、決して長い時間ではない。キビキビとした仕事が求められるという年季の入った職人技なのである。

 決して焦がさぬようにしてしかもじゅーじゅーと茄子の体液が溢れ出るくらいになったら、焼き場は終了して奥の調理場へと運ばれる。そこでは熱々の茄子の皮を素手で剥いでいくという、これまた極めて年季の入った職人技が施行されていく。極めて地味な作業ではあるが、へたな機械を使ったりしたら台無しなのだ。あくまでも素手で焼いた茄子の熱々の皮を剥いでいくのである。

 良き素材に職人芸がプラスされたら、余計な味付けは禁物なり。削り節を振り掛けて運ばれる。それにショウガ醤油を控えめにかけたらば完成である。

 ほかほかとして肉厚の茄子の実からはじゅーじゅーとして溢れ出る茄子本来のエキスが充溢している。それを箸でつまんで口に入れる時の、何とも云えない満足感。これこそ秋の恵みの王者ではないかと感じるくらいだ。