富士方面に旅した途中で「富士吉田うどん」に遭遇した。山梨県には「ほうとう」という歴とした伝統的郷土料理があるのだが、それに対抗しようとするかのように「富士吉田うどん」というものが存在している。ほうとうと比較すれば似ているようでいて全然似ていない。これまで都内において「吉田うどん」的メニューを食したこともあったが、現地の食堂にて食べたことは無かった。それだけに噂に違わぬ、聞きしに勝るこの麺類の個性は強烈である。両者は別物であることにあらためて驚かされたのだ。
富士吉田うどんの麺は、ほうとうの麺より一段とごん太く、しかも腰が強いのが特徴だ。うどんを食する地域は日本全国いたるところに散在しているが、此処のうどんほど硬い麺は無いだろうと思われるくらいに徹底している。これこそ吉田うどんの個性であり、好みが分かれるところだ。硬い御飯を噛むようにして味わわなくてはならない。顎の運動になるくらいの思いがする。するするっとした喉越しなどとは全く無縁の食材なのだ。
基本のトッピングが茹でたキャベツというのがまた凄い。いくら茹でているとはいえするするっと喉に入る代物ではなく、よく噛んでいかなくてはならない。麺類の常識からすればかなりずれていると云ってよい。麺の常識と共にトッピングまでもが個性的であり、ダブルで驚かさせることになった。
キャベツ以外に特徴的な具材が馬の肉。これが存外いけたのだ。馬肉を食う習慣は隣の信州長野だとばかり思っていたが、甲州にもそんな風習があったのだ。甘辛く丁寧に煮込まれた馬肉は、それだけでも御飯の友になりそうなくらいに美味であった。
さて最後に出汁の評価になるが、醤油に味噌を合わせており極めて折衷的な味付けである。言葉を換えれば何ともダサい味付けと云えなくもない。味噌味の美味い麺類は色々な地域で見られるものだ。もっと味噌味を利かせて田舎くさくした方がよいだろうと思われるのだ。今度吉田うどん麺を使って、味噌味のうどん作りでもしてみたくなった。