関東にも大雪が舞い降りた日、おいらは富士五湖の方面へと向かっていた。雪化粧した富士山の姿を眺めたいという願望などもあったが、それは叶えられることがなかった。一見さえなし得ずであった。午後からは雪も小降りになっていたのだが、見晴らしは極めて悪く、すぐそこに存在するのであろう富士の雄姿を、分厚い雲群が遮っていたのでありました。
JR中央線、富士急行線を乗り継いで、河口湖駅から観光客向けのレトロバスに乗り西湖へと向かった。雪に煙る樹海付近を通り過ぎたとき、深く重厚に冷え冷えとしたその景色がまさに「樹海」と呼ぶに相応しいことを実感させたのだった。
西湖に面した根場(ねんば)という集落に着くと、そこでは「かぶと造り」という茅葺民家が立ち並ぶ風景に遭遇した。かつてこの地域は、地元のものづくり文化で活気溢れていたとされ、昭和41年の台風災害によりそれらのほとんどの民家が消滅してしまったという。現在に建ち並んでいるのはかつての活気ある民家集落を再現したものである。再現された茅葺民家の中では、地元の伝統料理や伝統工芸品の展示販売、あるいは陶芸作家等による作品展示販売などが行なわれていた。
そこで試食したヤーコンの漬物なるものを口に頬張れば、まるで新しく瑞々しい食感に驚き感動の雨霰状態だったのだ。店の小母さんは「梨みたいにサクサクの漬物だよ」と宣伝していたが、成る程である。まるで果実の食感なのだ。それが漬物として御飯にも合うくらいに仕上がっている。早速土産品として買い求め、日本酒の相棒のつまみとして味わっていた次第なり候。
先述したが今回の旅にて富士山の雄姿に接することはなかった。それでも西湖という富士五湖の中では地味な湖の、その周辺の雪景色された風景に接して、日本一の山と共に息づく土着的な生業に接することが出来た。有意義な旅の収穫なのであったのです。