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清々しい掌編小説のような物語が重なり合って、特異な本の世界が築かれている。テーマをあえて述べるならば、「生」と「喪失」とでも云えようか? 古くから作家・藤原新也さんが追求してきた最も重要なテーマだが、その表現方法やスタイルは少々意外な感じがする。それくらいに、以前の作品群とは異質の味付けが施されているのだ。
云わば敗者の視線でこの世を解き明かす試みとでも云えようか。作家自身の市井の人々との交友が、その素材として選ばれている。新也さんの世界観が新しい素材を得て、新しい物語を紡ぎだしている。表面的なインパクトは影を潜め、代わりに立ち昇ってくるのは充溢した生の存在感だ。極めて強く共感される生の存在感が匂い立っているような、不思議な物語が詰まった、稀有な一冊なのである。
改めて記すが、藤原新也さんといえば、写真家、或いはエッセイスト、ジャーナリスト等々の顔を持つ、マルチな才能を発揮して活動を続けるアーティストである。生と死に対する洞察力は、我が国の文化人の中でも抜きん出ており、写真やドローイングという作業を通してそのイメージを可視化させている。その手技、方法論に驚かされるばかりでなく、彼の底流に流れる思想性が滲み出ていて、感動させずにはおかない。
ときに「真実」と一体として存在する世界の「闇」を、独特のイメージとして現出させたりもする。漆黒の闇を写し取ることに関していえば、藤原新也氏以外のアーティストは存在感を失っていく。世界に唯一人ともいえるくらいに、漆黒の闇の表現者としては稀有なアーティストなのだ。