昼間は定食屋をやっている居酒屋に立ち寄って、「ブリの照り焼き」を注文したところ、その懐かしい味わいにとても染み入っていたのです。
そもそもブリの照り焼きというメニューは、おいらの田舎ではそれほどポピュラーとはいえないものであったが、その後上京し、このしっとりした脂が乗ったブリの照り焼きに出合った。その甘辛の調理の妙こそは、日本食の原点を示していると云っても過言ではなかろうという、いわばある時点でのおいらの思い込みにて、当時そればかり作っていたものである。週に何度も同じメニューを試行錯誤して調理し、そして口にしていたブリは、おいらに調理の楽しみを発見させるきっかけにもなっていた。苦学生の時代の古き良き記憶でもある。そんな特別のメニューを、知らぬ間に口にしながら、懐かしい気分に満喫していた今宵なのです。
ご存知のように「照り焼き」という調理法は、醤油、砂糖、味醂等を調合した甘辛の調味料を食材に塗り、上面から炎を炙って焼くというものである。まずは時間がかかる。ガスコンロもそれなりのものが必要である。おいらの学生時代のアパートにあったコンロは、いい加減なものであったが故、ほとんど満足すべきメニューの完成をみないままであった。そんなほろ苦い想い出も混在するのだ。
地元の食堂で出された「ブリの照り焼き」は、その点でも満足できるものであった。ブリの皮は焦げて黒く、それを剥いでみれば、甘辛味の染み込んで香ばしいブリの身が嗅覚、味覚を刺激したのでありました。