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不況不況の大合唱は鳴りをひそめたとは云え、先の見えない状況はいっこうに変わる気配など無い。数年前から小林多喜二の「蟹工船」のブームがさかんに取りざたされているのだが、かつて「蟹工船」が発表されていた時代に於ける新しい息吹きさえもが見えてはこないのである。見えているものと云えば、いまだ横行するリストラという名の不当解雇、ワーキングプアの増大、そして時代が共犯者となって引き起こされる大量の凶悪犯罪、等々といった暗澹たる世界。
このような状況を目の前にして、思想家、吉本隆明氏が述べている言葉は、重くしっかりと状況を見据えている。「貧すれば鈍する」といった類いの浅薄な通俗論議とは、真逆の論調なのである。
さて、同書の中で吉本氏は、現代文学の世界に於いて「蟹工船」を越えるくらいの作品が現役作家から生まれてこないことを嘆いていた。たしかにそうだろう。同様の思いは常々感じているところである。
純文学作家たちが「文壇」という名の閉ざされた村社会で胡坐をかいている。そうした状況からは真に感動的な文学作品など生まれ得る余地など無いのかもしれない。誰が今の状況に突破口を開いて、あるいは描いていくのだろうか? はたしてそれは可能なのだろうか?