秋田県を旅している中で「じゅんさい鍋」という思いがけない逸品に出くわしていたのだった。訪れたその居酒屋では夏にも鍋料理を提供しているということで、中でも秋田の名産のじゅんさいをふんだんに利用しており、これぞ秋田の鍋と云うべき逸品であったのだ。
じゅんさいという食材は秋田という土地柄と不分別にあり、すなわち秋田で採られていてこそのじゅんさいなのである。白神山地から湧き出て流れ着く清流によって育てられるのがじゅんさいである。ぬるっとしたゼリー状の食感は、白神山地の恵みの存在を抜きにして存在し得ないものとなっている。
秋田の代表的な鍋と云えば「きりたんぽ鍋」だが、「じゅんさい鍋」の味付けの基本は、このきりたんぽ鍋を踏襲している。醤油ベースの甘辛いスープには、秋田の伝統料理のレジェンドを感じていた。泥臭いくらいにぐっとのどを潤す味付けだった。夜の酒が進んだことは云うまでもないのだ。