春本番を実感するにあたって、蕪の料理に出喰わしたことは大きかった。蕪と浅利の煮込み料理である。煮込んでとても柔らかな蕪と、春らしい浅利から出た出汁の香りとがマッチしていた。とても逸品的春料理なのであった。
蕪は別名で「すずな」とも言われ、春の七草のひとつなのである。大根とはとても近しいかと思うが、春の季節をもたらす食材としての蕪の存在感はとても大きいと云ってよい。ビタミンCを多く含み、胸焼けの原因となる因子を除去するアミラーゼという酵素もまた豊富なり。胃腸のもたれを解消させる整腸効果も報告されている。
浅利(アサリ)もまたこの季節にとっての旬の食材の代表格である。浅利料理の多くが東京下町に発祥されたということを思うにつれて、春の東京湾界隈の風物詩として語られる背景が気にかかってくる。古き江戸の時代において、旬の浅利を用いた春の料理が席巻していたということを思い浮かべている。深川界隈がもっとも賑わう季節なのではなかろうか。