秋への惜別と共に舌鼓を打った「炒り銀杏」の味わい

秋の終わりは例年、イチョウの落葉とともにやつてくる。少し前には「八王子いちょう祭り」にて黄色く色づいた光景に接していたのだが、此処へ来て秋への惜別の情念と共にイチョウ葉の落葉を眺めることが多くなってきている。イチョウの落葉とは即ち、銀杏の収穫を表しているのである。旨い銀杏が食堂や居酒屋等のメニューに上り、そのエグミに舌鼓を打つ機会が増えているのだ。

ところで旬の食材であるぎんなんについてはよく、匂いと苦いのが気になるという意見がある。ネット上のコメントにも、そんな発言が散見される。苦いというより「エグイ」と云うのが真っ当なる表現だと思うのだが、そんなエグミこそは銀杏の持ち味、個性ではあり、個性を開花させるべき銀杏料理には注目度満点なのである。

とは云っても銀杏のエグミをもっとも十全に味わうには、おそらくは「炒り銀杏」を凌駕するものは無いのであろう。炒るという調理法がピタッと嵌る料理は「炒り銀杏」以外に示すことが出来かねるのである。

子供のころから取れたての銀杏を前にすると、銀杏をフライパンの上に乗せて蓋をして炒るというこのシンプルな料理に何時に無い食欲を刺激されてきた。パチン! という殻が弾けた音が合図となって蓋をとってフライパンの中を覗くと、何時でも独特のこの季節のエグイ味覚が鼻を突いた。こんな味への思いは秋への惜別と共にあった。