里芋の美味しい季節である。煮物として食する機会が多いが、皮ごと蒸して食べる「きぬかつぎ」というメニューもまた捨てがたい。
里芋の小ぶりな子芋を皮ごと蒸して、塩や味噌などの調味料で味をつけて食する。黒々とした里芋の皮は、平安時代の女性の衣装である「衣被ぎ」に似ていることから命名されたとする説が有力である。平安朝のころから食されていたと思えば、その格式も見事なものだ。
平安朝の衣装を手ではがしてみる。すると中には白々と透き通ったかのごとくに瑞々しい身に出合うのである。これまた優雅なる平安朝の食べ物を彷彿とさせている。
ジャガイモ、サツマイモといったメジャー的芋種との最大の違いは、其のツルリとした食感とともに、天然の甘味であろう。調味料としての砂糖か邪魔になるくらいに、里芋の甘味は稀有な味覚を有している。塩も味噌もつけずに味わってこその、きぬかつぎの美味さである。