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鹿島田真希氏の芥川賞受賞作「冥土めぐり」を読んだ。400字原稿用紙にして110枚程度の作品で、一気に読み終えていた。前回の受賞作2作品に比べてみれば、わかりやすく正攻法な作品である。そもそも作家の邪気溢れるはったりやら、自己満足にしかないストーリーに付き合わされる読者の身としては、これほどの徒労感はないのであり、そんな文学愛好家の徒労感に些かなりとも芥川賞が関与して欲しくは無いのである。
作者の鹿島田真希氏を連想させる主人公の女性には、「病的」というのが適切であろう物欲の塊のような母親と弟が存在する。その母親の祖父というのが過去に一財産を築いた資産家であり、母親は過去のバブリーな生活の延長として、極めて病的な日常に埋没しているということである。
こんな家庭一族の悲喜劇模様を、バブル崩壊後の日本の縮図だと称する選評者もいるようだ。
――高樹のぶ子氏による選評
経済的な豊かさを剥ぎ取られてもなお虚飾と虚栄の夢を捨てられない浅ましい人たちを描くことで、経済力以外のアイデンティティをもち得ていない日本の縮図としても読める。女性主人公の母親と弟は、金銭の奴隷として描かれ、主人公は家族の荒廃した桎梏から逃げ出すように、頭に病を持つ夫を連れて一泊の旅行に出かける。
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頭に病を持つ夫の描き方には、ある種の違和感を持っていた。無垢なるものとしての脳の疾患患者に対して殊更に天使の役割を担わせるには無理があると感じていた。