中華料理店でメニューをめくっていると「レンコンの甘酢漬け」というメニューが目に付いてハッとした。今年の芥川受賞作品「きことわ」にこのメニューが登場したことを想い出したからだ。当ブログでも以前にそのことを記している。
http://www.midori-kikaku.com/blog/?p=3269
主人公・貴子さんがこのメニューをつくり、父親がその味にいたく感激するというシーンがある。葉山を舞台にしたこの小説世界の中で、重要なシーンを占めるこのメニューこそ、葉山的なセレブ料理であり、日本的なものだと思い込んでいたからだ。だが中華料理店にてこのメニューがあるというのは一体どういうことなのか?
早速注文して食してみた。甘酢の味付けは中華料理にしては珍しいくらいに控えめな味わいだ。繊細でもある。サクサクとしたレンコンの食感と甘酢とのハーモニーが絶妙に似合っている。
中華と繊細という概念はまるで対立するようなイメージだが、こと「レンコンの甘酢漬け」を味わう限りにおいて、対立ではなく調和が支配している。
ただ日本料理との大きな違いは、かつおや昆布の出汁が用いられないことである。日本の酢ものといえば「三杯酢」に象徴されるような、かつお出汁に酢や醤油、味醂をあわせて味付けされるのが基本だ。中華の甘酢漬けというものは、この日本料理の基本を踏襲することはない。そもそも出汁を活用するという食文化が無いのだ。
おいらが以前に調理したものに比べると、小ぶりなレンコンであることと、それが白化粧されているかのごとき見てくれの白さが際立っている。醤油や味醂を使用していないのが大きな違いだろう。
自分の料理が勝っているなどと云うつもりはないし、日本料理と中華料理の甲乙を判断しようなどと云う企みも持ち合わせていない。中華料理が日本料理を真似しようとしたのか? あるいはその逆なのかもしれない。こんな国際交流はあって然るべきであるし、これからもどんどんと増えていくのであろう。