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今年8月に出版された森山大道「路上スナップのススメ」を先日購入した。「砂町」「佃島」「銀座」「羽田」「国道」の5章からなり、写真と文章による所謂、大道ワールドへの案内本という印象だ。
タイトルからも判るように、主にカメラマニア、写真学生をターゲットに、撮影術の裏側にスポットが当てられている。大道本としては最新作であり、ここ数年間の大道氏の新作写真や彼の取り組みに接するというだけでも一読の価値がある。仲本剛氏との共著となっているのは、仲本氏が大道氏の撮影に密着し、インタビューを交えて構成されたレポートという形を取っているからである。
写真家として活動を続けて半世紀あまり、ずっと気になる存在でありつつける大道氏。彼と併走するようにして仲本氏はスナップ術を記録し続ける。
「中途半端なコンセプトは捨てて、とにかく撮れ!」
だとか、
「写真に限らず、価値基準みたいな感覚が僕はとても希薄だから、一般的な基準や常識なんて、どうでもいいと思ってるんだよ」
だとかの、所謂「森山大道的語彙」は未だ健在であり、刺激的に心を突き刺してくる。
「路上スナップのススメ」では、デジタルカメラによる作品が目を引く。2008年頃からRICOH製のコンパクト・デジタルカメラを手に撮影された写真群が、同書の半分近くの分量を占めている。
おいらがこの写真群を初めて目にしたのは、2009年春頃に開催された写真展である。銀座の「RING CUBE」ギャラリーにて、「森山大道展 銀座/デジタル」と銘打った、撮り下ろし写真展が開催されていた。それは大道氏による初めてのデジタル写真の発表会でもあった。
銀座4丁目に聳えるギャラリーの作品群には、彼自身の影がそこかしこに見え隠れしていた。あたかもナルシスが鏡に映る自分の分身を愛したごとき光景を彷彿とさせている。散歩する大道氏と彼を追う写真家森山大道との隠れん坊みたいな、シチュエーションであった。
芸術家がナルシシズム的な資質を持つ例は珍しくないが、大道氏に至ってはあの年頃になって、童心に返って、銀座で鬼ごっこやら隠れん坊をしている姿が、とても微笑ましく目に焼き付いてしまったわけなのだ。
広角系レンズ描写が評判のRICOHデジタルだが、実際に撮影してみるとISO高感度設定下でのゴースト、ジャギー等の発生が目立つのが気になっていた。大道氏の作品群も例外ではなくそんなこんなが目立っていたが、そこはさすがに世界の森山大道。大道マジックとでもいうのだろうか、特異な表現効果をあげていた。それは特異な表現論を想起させるくらいの、インパクトを与えるに充分なものだ。
ミラーに映った大道氏の影絵、それはまるでナルシスが湖面に映った自身の姿に恋をしたまさしくその瞬間を写し取った、現代の影絵なのだと信じて疑わなかった。銀座という特異な場所で、探求するというより隠れん坊、鬼ごっこを繰り返す大道童。古希を越えてなお旺盛な彼は、来年4月にはデジタル写真のみの写真集「東京」(仮題)を発表する予定だという。これもまた待ち遠しい。