吉祥寺の「いせや」とも並んで中央線沿線の串焼きの名店といえば、荻窪の「鳥もと」である。
以前から荻窪駅北口の再開発とやらでこの「鳥もと」の店舗が取り壊されていたのを見るたびに、とても哀しい思いにとらわれていたのだ。荻窪駅がまだ駅というには頼りないくらいの時代に店舗を構えて、中央線沿線の酔狂たちを虜にしていたあの名店は何処に行ったのやら…?
先日、荻窪駅北口周辺を散策していたときに、「鳥もと」の新店舗に遭遇したのでした。早速串焼きのセットを注文する。そして出てきたのは、昔懐かしの「鳥もと」の串焼きなのでした。タレも塩も結構あっさり目で提供されるのが同店のある種特徴だが、そのままであった。
焼鳥、串焼きの類いを注文した後にメニュー表を見たところ、「毛がにの身みそ和え」という、不思議なメニューを目にして頼んでみた。小さな器に盛られた蟹の身がちょこんと乗っていた。その身に一寸した味噌の味付けが施されていたというものであった。蟹の身に味噌というのは何だか邪道のようでもあり、流石に閉口したくもなったのではあった。それでも尚元気に、一時は廃業してしまったのかもと噂されていた名店が、このようにして継続営業をしているのを目にして、天晴! との声をかけてやりたくなったのだ。
荻窪には「鳥もと」という店が必要なのだということ。そのことを広くアピールしていきたいのである。今現在の荻窪駅北口の風情を眺めるたびに、再開発で失われていく食文化の哀愁を感じずにはいないのである。
■鳥もと新本店
東京都杉並区上荻1丁目4−3