地元の古書店にて、司修のサイン入り画集「壊す人からの指令」を発見して購入したのです。奥付を見ると「昭和55年5月30日初版発行」とある。今から30年も昔の画集である。実は初版の発行当時においらはこの本にとても関心を持っていて、何度か購入しに書店に向かったという想い出が鮮明である。だがその度に「定価6,800円」という高価な価格に思いを遂げずに居たのであった。
今にして振り返れば、当時のおいらは6,800円の画集を購入する経済的余裕が無かったということなのだろう。懐かしくもあり、またほろ苦くもあるのだ。こんな本はそうはない。生涯をともにしたいという特別な一冊として大切にしていきたいと考えたのである。
司修という画家については、大江健三郎の著書の装丁家として初めて目にしたという記憶がある。当時、新潮社の純文学シリーズとして続々と出版されていた大江健三郎氏の小説本には、司修による自身の版画や絵画作品をモチーフにした丁寧な装丁の仕事が光っていた。クレジットには「司修」の名前が静に輝いて見えていたものである。それから少しして、おいらとは出身が同じであることを知り、より親近感を感じつつ今に至っているという訳なのである。司修さんの著した著書は、「描けなかった風景」をはじめ数冊購入して読んでいる。愛著として大切にコレクションしているのだ。
同著が出版される少し前には、大江健三郎の「同時代ゲーム」が発表されていた時代である。大江氏は司さんのこの本に対して、「ゲームと器用仕事(ブリコラージュ)」という力のこもった一文を寄せている。レヴィ・ストロースの「ブリコラージュ」を「器用仕事」と訳すことには強い違和感を感じるのだが、小説家・大江健三郎が画家・司修に宛てた極私的プライベートな献文ともなっていて興味深いのである。