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昨年(2009年)の「本屋大賞」に輝いた作品ということで、前々から気になっていた湊かなえさんの「告白」を、遅ればせながら読んでみた。第1章の「聖職者」は立ち読みで大体のところは把握していたが、第2章以降を読み進むにつれ、想像していたストーリーとはかなり異なった展開に些か戸惑いつつも、一気呵成なる読書体験の世界へと足を踏み込まされることになっていたのである。「人間の闇」などとマスコミで称される人間の心理分析等を素材にしながら、若々しくあっけらかんに調理の腕を振るっている。だからよくある推理小説、ミステリー小説の類いとは、ストーリーの展開方法やモノローグによる構成立て等々とは、かなり趣を異にしている。「小説推理新人賞」の受賞者としての肩書きはまるでピンと来ないのである。それぞれの章によってモノローグ(独白)のスタイルが異なっている。この変化するスタイルのことなど、あまり推理小説界には見慣れない手法であるのだろう。多くの評論家が指摘するように、作者の筆力にはとても敬服するのだが、それが緻密な計算ずくなものではなく、おそらくは一気呵成な登場人物へのなり切り、憑依にも似た思い入れの賜物だったとしたら、手放しで賛嘆の言葉を並べることに躊躇を覚えるのだ。推理小説の伝統やら常道やらの壁を突き破って出てきた作品には違いないのだろうが、未だに気にかかるのである。それは見方を換えれば、プロットが優先して物語性が粗末にされた作品に対する、正邪併せた思い入れなのだろうという気がする。若気の至りなどという言葉さえ浮かんでくる。未だに古い殻を突き破れないのが自分なのかもしれないのであるが、どうにもこうにもならないのである…。松たか子が主演する「告白」の映画が制作されたという。観に行くべきかどうか迷っている。原作以上に映画に感動するケースもあるから、おそらくは観に行くことになるのだろう。ベストセラー的作品の別の面を観て楽しむことができるかもしれないと期待しているところなのである。