♪ カンパリソーダ片手 バルコニーに立って
風にさらわれて グラス落とした
あの晩の 夕陽の悪戯 ♪
知っている人はまず居ないだろう。かつてのシンガーソングライターこととみたゆう子さんの「蒼い風」の歌詞の一節である。メジャーではないが出身地名古屋のローカル局ではリクエストの上位にランクし、ローカル人気は沸騰したのである。おいらも過去に名古屋旅行で一泊したときにこの曲を耳にして以来、愛聴歌曲のひとつとなっている。当時所属していた会社の名古屋支局長がとみたゆう子のファンであり、彼に薦められたのがきっかけでもあった。その後、とみたさんには4~5回は取材、インタビューをしていた。公私混同も甚だしかったのである。
ともあれ当時はこんなヨーロッパ調のポップスは珍しかった。「カンパリソーダ」もまた、バーボン、スコッチ等の洋酒とは違って、程よく甘く苦く、ヨーロッパのエスプリを感じさせる飲み物であった。「カンパリ」というリキュールをソーダで割ったのが「カンパリソーダ」である。調べてみるとこの「カンパリ」は、ビター・オレンジ、キャラウェイ、コリアンダー、リンドウなど60種類もの原料によって作られているという。薬草類が主原料であり、未だその製造方法は公表されることがない。まさに味覚の協奏するカクテルと呼ぶのが相応しいのである。
二十代に入るか入らぬかの青春の門、大人の門を潜り抜けたばかりの頃においらは「蒼い風」と「カンパリ」に出逢った。尚かつ当時の甘苦い恋に酔っていたことを懐かしく回顧するのだ。まるで血液のような鮮赤色。苦味走った複雑な味わいがのどを潤すとき、青年の頃の甘苦い想い出は胃袋から身体全体へと巡りゆくのである。そんな甘苦い想い出を回顧するにはとっておきのリキュールなのである。