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金原ひとみの「ハイドラ」を読了した。読後感はとても爽やかである。そしてまず初めに、もっとも興趣をそそったのが、瀬戸内寂聴さんの巻末の解説文であったことを記しておきたい。
まるで、瀬戸内さんが意中の人、金原さんに宛てて送った恋文のような趣きなのである。金原ひとみは凄い、才能がある、素晴らしい、云々と、まあ臆面も無くといってはなんだが、それくらいに絶賛の雨あられ状態なのである。解説文の役目を遥かに逸脱する個人的な想いを綴った賛辞の数々。人生80年以上を過ぎればこれくらい無邪気に恋文を綴れるようになるのだろうかという文章であり、それこそが男女の性別を超えて「恋文」の名に値するのだ。いぶかるくらいに、天真爛漫な愛情に満ち溢れている。まさしく稀代の名文なのである。けっしておちょくっている訳ではない。「文庫の解説文」というある種の公の媒体にこれくらい堂々として私的な想いを開陳できる瀬戸内寂聴先生は、やはり只者ではなかったのである。
一応は書評というかたちで書いているので、「ハイドラ」についても記しておこう。有名カメラマン新崎と同棲しているモデルの早紀が主人公。カメラマンの専属モデルでありながら、彼に気に入られる為の無理なダイエットなど強いられている。そこへ現れたのが、天真爛漫なボーカリストの松木であった。早紀を取り巻く二人の男とそれ以外の男女たちが、テンポ良く、跳梁していくというストーリーである。
一時期のおいらであったら、こういう小説を風俗小説の一パターンと判断したかも知れない。だがこの作品は瑞々しさ、目を瞠るほどの筆致の小気味良さ、等々によって、判断を一新することになった。確かに風俗描写を超越した世界観が表現されているのである。