トラ年、新年、初仕事。いささか世間は浮かれ気味の中、おいらは朔太郎さんの隠された傑作詩の「虎」を想い出すのだ。
虎 (萩原朔太郎「氷島」より)
虎なり
昇降機械(えれべえたあ)の往復する
東京市中繁華の屋根に
琥珀の斑なる毛皮をきて
曠野の如くに寂しむもの。
虎なり!
ああすべて汝の残像
虚空のむなしき全景たり。
―銀座松坂屋の屋上にて―
凍える手先をすり合わせ、なぐさめ程度の暖を取りながら、おいらは「虎」が産まれたという銀座松坂屋の屋上へと向かっていた。館内を抜け屋上をまたぐ扉を開けると、ヒューヒューと空っ風のような乾いた息吹がおいらの顔を撫でた。懐かしい息吹である。
しばしの間、空っ風もどきに打たれた後に、おいらは屋上階にめぐらされている金網の外へと眼を伸ばしてみた。普段見慣れたはずの濃い化粧した銀座都市が、また違う姿を見せていた。化粧の頭に隠されていたのは、都市を機能化させるべく様々な様相を見せている。それはまた、隠された都市の一素顔だったのかも知れない。