辻村深月さんの「盲目的な恋と友情」を読む

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「鍵のない夢を見る」で直木賞を受賞した辻村さんによる連作である。舞台は東京はずれの某私立大学キャンパス。大学の管弦楽部に集う若き男と女達の中に、蘭花、留利絵、美波、という女子学生や、茂実星近という美形の男子学生がいる。両作品とも基本のプロットは同一であり、「恋」では容姿端麗美女の蘭花の視線で物語が綴られ、続く「友情」では容姿に自信のない留利絵の目を通したドラマが進行する。

盲目的な恋にのめり込む蘭花は茂実に嵌まり、次第に歪んだ恋に押し潰され、行き場のない結末に悶々とする。同書帯には「醜さゆえ、美しさゆえの劣等感をあぶり出した、鬼気迫る書き下し長編。」とあるが、作者の狙いはわかる。グイグイとストーリーに引き込んでいく辻村作品とは少々異なって、男女の恋のエピソード描写はあたかも浅薄な青春小説のような香りも匂わせてもいる。この作品が辻村作品であることを忘れさせるくらいに甘ったるい描写が続く。だが終盤のどんでん返し的オチは流石と思わせつつ、辻村さんらしい技工の巧みさを強く意識させられた。

死者と生者の再会がテーマの、辻村深月さんの「ツナグ」を読んだ

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今年の直木賞受賞作家こと辻村深月さんの「つなぐ」を読んだ。現在公開中の映画「ツナグ」の原作でもあり、社会的関心が高まっているだけにおいらも書店で買い求めてしまったという1冊ではある。

初めは単なる社会的ブームメントに対する一片の関心であったが、死者と生者、死と生、あるいは、死に向かう生、等がテーマであることを理解しつつ、一片以上の興味で読み進めることとなっていた。

登場人物は、主人公の「使者(「ツナグ」と読む)」こと渋谷歩美の他に、アイドル・水城サヲリ、サヲリとの再会を望むうつ病患者の平瀬愛美、演劇女子高生の嵐美砂と親友の御園奈津、癌で亡くなった母・ツルに会うことを希望する畠田、等々と多種多彩である。最終章では、主人公の歩美が死者への対面を望むというシチュエーションから章のスタートだ。物語は当初の短編集の装いを裏切って、連作長編小説の体を成して、読者の関心を引きずっていくのだった。

死者との再会を可能にすると云えば、青森の潮来が連想されるが、小説の初めから「潮来とはまるで違う」という記述がしつこいほど登場する。日本における土着的神話のイメージを峻拒していきたいという作家の志向を読み取ることが可能であろう。

何冊か読んでいる辻村深月さんの作品世界と同様に、同書もプロットがきっちりとしていて、それなりのレベルに達してエンターティメント性が顕著である。そんなエンターティメントを求める読者であるならば、充分に満足できる作品であろう。

然しながら、おいらは大衆小説のエンターティメントにはほとんど興味が無く、更には、死者との再会と云うシチュエーションは眉唾ものだと云う考えを持っている。或いは死者と生者をつなぐ使者(ツナグ)などは、フィクションの中でも出来の悪い代物だと考えているのだから、この力技が走る作品も、テーマとシチュエーションが空回りしている力技作品の一つであるという以上の評価を抱くことは無かった。

直木賞受賞作、辻村深月さんの「鍵のない夢を見る」を読んだ

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今回の第147回直木三十五賞受賞作は、辻村深月さんの「鍵のない夢を見る」が受賞したという先日のニュースを聞き、早速、受賞作の中からその代表的一章の「芹葉大学の夢と殺人」を読んだ。

「地方」のという、云わば中央から距離を隔てた人々の日常生活をテーマに、人々の欲望と思いもしない崩壊を描いたという風な評価が踊っていることは、おいらも文芸誌誌上のコメントを読みつつ理解していた。だが然しながら、そんな評価、コメントと、おいらの個人的感想とは、ある程度の距離的違和感が存在していたと云うべきなのだろう。

作家の辻村深月さんといえば、特に読者層の中でも近年の若者層にファンを多くしているという。予め人気者としての直木賞受賞者となった訳である。

そしておいらが受賞作品も読んだのではある。もちろんのこと受賞作品としての完成度や、大衆文学作品としてのドキドキ感、ミステリー性も、申し分なく作品中にてアピールしている。一級的大衆文学作品としての条件は見事に整っている。だが、なんとなく物足りないという印象を受けたのもまた正直なところではあったのである。

余談にはなるが、同賞選考会にては、原田マハさんの新作「楽園のカンヴァス」が候補作にノミネートされていたということであり、おいらはこちらの作品こそは受賞作品に値するものだと考えている。後日、原田マハさんの「楽園のカンヴァス」についても記していきたいと考えているところである。