芥川賞落選作家島田雅彦さんの「島田雅彦芥川賞落選作全集」は全集制覇すべし

[エラー: isbn:9784309412221:l というアイテムは見つかりませんでした]

「島田雅彦芥川賞落選作全集」を読んでいる。何しろ同文庫を手にしてすぐに、島田雅彦さんによる「芥川賞との因縁」というタイトルの前書きにひきつけられてしまっていたのだ。

今や芥川龍之介賞を選出する権限を手にしている選考委員の島田雅彦さんであるが、若い駆け出しの頃にはさまざまな身の周りの不条理に悩まされていたのだった。人気作家こと島田雅彦さんは、過去の若い頃においては将来の文学界を担うべき作家として嘱望されていたのであり、6つの作品が芥川龍之介賞の候補作になりながらも、ついには芥川賞を受賞することが無かったという、ある種の勲章をいだいている。云わば芥川賞受賞に引けをとらないくらいの勲章にも値するしろものである。

数十年ぶりに読んだ初期の代表作「優しいサヨクのための嬉遊曲」は、島田雅彦さんの原点であるばかりか、既成の文学界といった枠をぶち破る資質を有していたということを思い知らせていた。

6作品をよみおえてはいないが、読み終える価値ある全集であることを納得させられたのである。

島田雅彦さんの新著「英雄はそこにいる」には興奮を禁じ得ない [2]

[エラー: isbn:9784087714494:l というアイテムは見つかりませんでした]
プロット、登場人物等々、かなり痛快である。

主役は、現代のヘラクレス(すなわち「英雄」)こと佐藤イチロー。暗くかつ凄みある過去を持つ天才暗殺者である。脇役として、シャーマン探偵ナルヒコ、「特命捜査対策室」の穴見警部、たちが脇を固めている。端役として登場する大阪府知事、新興宗教団体代表、或いは北の黄泉の国の三代目たちは、まるで哀れで滑稽なキャラクターとして動き回り、読者が多分望んでいるであろう筋書きにて進行していく。ちなみに大阪府知事はあっけなくイチローの刃で暗殺される。そんな筋書きは、上質な小説ならではの筆致にて描かれていき、ある種のカタストロフィーをかたちづくっていくのである。

そんなこんなの記述がまた英雄の存在感、英雄待望のプロットに、ある種の必然性を加えているのだ。

然しながらだからといって物語に現実性があるかというのではなくしてその逆ではある。ヘラクレスの物語が非現実性で一貫している以上に、非現実性がはえる特異な物語のプロットを最後まで貫いているのだ。

先日の記述の続きになるが、島田雅彦さんが描いた現代的ヘラクレスの物語は、おいらをはじめとする読者を興奮の渦に巻き込みつつ、ちゃんと小説的世界観を確立させてもいる。純文学とは云えないであろうこのエンターティメント小説を読みつつ感じるのは、何よりも、時代の風、息吹、或いは息遣いというものである。時代の風を小説的に構成している。けだしこんな才能は現代日本の文学界には、島田雅彦さん以外に見つけることはできないのである。

島田雅彦さんの新著「英雄はそこにいる」には興奮を禁じ得ない [1]

[エラー: isbn:9784087714494:l というアイテムは見つかりませんでした]
今月に出版されたばかりの一冊、島田雅彦さんの新著「英雄はそこにいる」に思いもかけずに興奮したのであった。読書的感動としては近頃無かったようなインパクトである。

小説の最後の一説を読み終えて瞬時に理解した。この小説の作家は自らの世界観を展開したかったのであると。そしてそんなやんちゃな企みはある種の成功を遂げているのであることをおいらは理解していたのであった。

紛れもないエンターティメント小説である。純文学作家としての筈ではあった島田雅彦さんは、いつの間にやらエンターティナーに変身していたということなのかも知れない。しかも一級、特級のエンターティナーではある。

頗るテンポのきいた展開である。それに引き替えシチュエーションはまるで非現実でありながら、人々の無意識的な欲求を汲んでいて、非現実的なプロットに存在感を与えているようなのである。

(この稿は続く)