桐野夏生著「東京島」は、女視点で女性の怖さを描いている

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桐野夏生氏の話題作「東京島」を読んだ。現在同名の映画がロードショー公開中であり、TVCMその他で物語の独特な設定やセンセーショナルなテーマが盛んに喧伝されているので、興味を持った人も多いに違いない。映画が公開されていることを知って、先日あえてこの原作本を購入したという訳である。

その昔「映画が先か、原作が先か」といった映画CMのキャッチコピーが踊っていたことがある。その伝でいけば、さしずめおいらの志向性は「原作が先」ということになる。当時、メディア・ミックスという言葉もマスコミ関係者を中心に氾濫し、メディア・ミックスにあらずんば先進メディアにあらずというくらいの、文化風俗を席巻した俗説だったと云えよう。

物語の登場人物は、世界一周クルーザー途中の難破舟から無人島に辿り着いた一組の男女夫婦、そして後から同様に難破舟で漂着したフリーターの若者たちである。後に「東京島」と名付けられた無人島の島人は、31人の男とたった1人の女(清子)。極めて特異なシチュエーションの無人島を舞台にしてドラマは進行する。

読了した第一印象はいささか陳腐な言葉になるが、やはり女性の逞しさ、そして根源的な畏怖の存在感を強烈なイメージを通して感じさせたといったところだろうか? 女性人気作家が女性の視点から男と女の性をカリカチュアとして描いたストーリーと捉えることも可能だ。あくまで女が無人島の規律を司るかのような物語の流れは、男にとっては衝撃的な展開である。あくまで物語の中の話だとは云え、徹底して女性目線のストーリーが展開されていくようだ。

だがこの物語を、現代日本の縮図として捉えることには無理がある。作者もそんな意図は無いであろう。一部の批評家たちによってなされるこのような評論は無効である。もっとプリミティブな架空のストーリーとして物語を捉えたい。

夫婦として流れ着いた夫は、無人島という過酷な環境に適応することが出来ずに衰弱し、ついにはあっけなく生命を落とすことになる。夫の「死」の原因はつまびらかにされることがないのだが、31-1名の誰かの嫉妬が原因による殺人だ…という、云わばサスペンス仕立ての味付けなどが添付されながら、ストーリーは曲線的かつ重層的な軌跡を描いていくのだ。この程度のストーリー解説はネタ晴らしには当たらないだろう。もし気になった人にはご容赦願いたい。